遠回りして気付いた想い
あーあ。
ったく、今日は久し振りに亜耶に会えると楽しみにしてたのに……。
とんだ、茶番が入ったものだ。
何て考えながら、ロビーを歩いていれば。
「遥さま」
と声がかかる。
誰だと思い振り向けば、支配人が笑顔で近付いてくる。
うっ……、やな奴に会った。
「お疲れ様です」
俺は、極力笑顔で対応するが、如何せん付け焼き刃では、直ぐ仮面が剥がれるだろう。
「珍しいですね。こちらに来るなんて」
怪訝そうな顔をして聞いてくる。
「まぁ…。ちょっと用事があったからな。それも終わったし、今から帰るところだ」
嘘ではない。
「そうでしたか。では、お気をつけてお帰りください」
うさん気な笑顔を浮かべながら言う支配人に。
「ありがと」
そう言葉を返し、入り口へ向かう。


今の誰にも見られてなかったよな。
周囲を気にしながら、俺は足を動かした。
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