遠回りして気付いた想い

こじんまりとした、小料理家。そこの一室が、接待会場となる。

今日は、ここで得意先の上司との接待だ。

酒には、強い方だが、さっきの亜耶の事があり、飲めずにいた。

「高橋さん。まだ、結婚されてないですよね。私なんてどうですか？」

相手の上司のお嬢さんが、自分から売り込んできた。

まぁ、確かに綺麗なんだけどなぁ。俺の嫌いなタイプだ。

甘ったるしい匂い、自分に自信があるのか、支那をつくって寄り添おうとしてくる。そんな態度が気に入らない。

「悪いけど、結婚はしてないが、婚約者は居るんだ」

本当の事だ。あの会長から、許可を得てるんだからな。

余り近付いて欲しくないから、俺は距離を措こうとした（亜耶を迎えに行かないといけないからな。残り香なんて残したくないんだよ）。

だが、そんな俺にまだ付きまとい。

「嘘。高橋さんって、浮いた話一つもないですよね」

疑い深く聞いてくる。

そんなの当たり前だろ。

俺の癒しの相手を悲しませるような事、俺がするわけないいだろ…。

結婚が、何時になるかなんて判らねぇ。ただ、俺は待つしか出来ないから…。

「ねぇ…」

尚も言い寄ろうとしてるお嬢を無視して、時計を見た。

二十一時半か…。

って…、ヤバイじゃんか。

アイツ等に、亜耶の寝顔見せたくない。

特に、優等生君。

亜耶の寝顔を見て、惚れ直されても困る。

「ちょっと、失礼します」

俺は、そう言って自分の鞄を掴むと、同僚の田中の腕を掴み席を立った。

「何だよ？」

忌々しげに俺を見る。

「悪い、田中。俺、急用が出来たから抜ける。後宜しく」

俺は、そう告げると背を向けて歩き出した。

「ちょ…高橋」

田中の困惑気味の声が、背後から聞こえるが、そんなのに構ってられない。

今は、急いで亜耶の所に行かねばいけないのだ（何の使命感だろう）。

亜耶が心配だから…。