海老蟹の夏休み
「だから、大きな違和感があった。きみは確かにあの子どもなのに、ずいぶんと大人しい。しかも人生に絶望してるみたいに元気がない。そうだな……夏休みが終わって、うな垂れながら登校する2学期の小学生ってところか」
「あ、なるほど」
 分かりやすくてユーモラスなたとえだ。朋絵が微笑むと、沢木も心なしか安堵の表情になった。

「そうですね、そんな心境かもしれないです。毎日が2学期の始まりみたいに苦しくて、出口が見えなくて」
「うん、僕もそうだったな」
「本当ですか?」
 朋絵は疑問の目を向ける。どうしても、沢木が受験に苦しんだというイメージが湧かない。彼は困った顔になるが、疑問に答えてくれた。

 沢木が卒業したA大は、当時は第2志望であり、第1志望はそれよりさらに難関の大学だった。合格するかしなか、ぎりぎりの線を目指して彼も戦ったのだ。

「上を見れば切りが無い。だけど、若い芽というのは、上に上にと伸びるのが本能で、他にはなにも考えられない。だから無理をして、必死になって、疲れ果てる」
 今の朋絵そのものの状態だ。深く納得し、そして肝心なことを訊いてみる。

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