未来の君のために、この恋に終止符を。




「実莉、本当にこのまま帰っていいの?」



片岡さんに追いつかれてしまう、と焦る私と対極に、晴樹は静かなトーン。

不思議と心臓にまで響いてくるようで、鈴の音のような心が安らぐ神聖な空気を一瞬だけ感じた。

だけど今、私に与えられているのはじりじりと迫られているようにじれったい感情だ。



「……どういう意味」



言い切るような形で、だけど問いかけていると、晴樹が言葉を選ぼうと眉間にしわを刻む。

ようやく晴樹がなにかを口にしようとしたその時、彼より低い声がその場に響く。



「逃げんなって言ってんだよ」



突然現れたのになによりも直接的な言葉を投げかけるのは、予想どおりの人────安藤くんだ。

私と晴樹がもたついているうちに追いついて、話を聞いていたんだろう。



確かに自分でも私の行動は逃げだと思う。

情けない、どうしようもない行為。

やめた方がいいとはわかっている、だけど、



「逃げることってそんなに悪いこと?」



自分の心を守るために、誰かを傷つけないために、避けることはそんなにいけないだろうか。



逃げることで昨日のように晴樹を傷つけてしまうなら、それはだめだと自分でも思う。

でも私は、片岡さんとうまく話せる自信がない。

普段から愛想よく話せていないけど、それでもいつも以上にひどい態度を取ってしまう気がする。



そのことで彼女に悲しい顔をさせることを思うと、近寄ることなんてできない。






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