未来の君のために、この恋に終止符を。




口元をばっと両手で押さえる。

こらえようとしているのはなにか、自分でもわからない。

だけどただ、なにもこぼさないように必死で手に力をこめた。



油断するから、調子に乗っているから、こんなことになる。

立川さんの言葉にうそなんてひとつもない。

だからこれは、当然の報いなんだ。



「花沢さん、」



名前を呼ばれて、はっと顔をあげる。

一緒に教室移動をして、ここまで来たふたり。



そばにいないはずがなかった。

話を聞いていないはずが、なかった。



「っ、」



じりじりと後ずさる。

たとえ一言でも、なんの言葉も向けられたくない。

恐ろしくて、恐ろしくて、たまらなかった。



ふたりの瞳を見ることさえもできず、私は身を翻してその場から駆け出した。

背中に届いた私を呼ぶ声は、振りほどいた。



聞かれたくなかった。

知られたくなかった。

立川さんたちのように晴樹を好きな人たちにも、私に優しくしてくれる人たちにも。



だけどもう、明日にはきっと周知の事実となっている。

最低な私がしでかした、晴樹に対して許されることのないことが、きっと。



そのことに怯える自分を、彼を解放しない自分を、心底嫌いだと思う。



それは2年前。

私と晴樹の関係が歪んだ、あの時から。






< 91 / 214 >

この作品をシェア

pagetop