スノウ・ファントム
◆初恋


俺がその塾に入らされたのは、高一の夏期講習からだった。

高校受験で第一志望(親の)の公立高に入れず、望んでいたレベル(親の)より低い私立高に通うことになった俺は、とにかく毎日やる気がなかった。

あまり勉強は好きでなく、それでも親の期待に応えようと自分なりには頑張っていたのに結果がついてこず、単純に腐ってしまったのだ。

テキトーに学校に行って、帰宅後も親の小言を受け流しながらテキトーに過ごして。

そんなだらけた俺の姿を見かねて、学校の最寄り駅のそばにある塾に、親が勝手に申し込んだ。


(だる……)


受講初日の感想はソレ。

学校と違ってちゃんと勉強しにきてる奴ばかりだから、居眠りなんてしようものなら目立ってしまうし、何より講師が変に熱い人ばかりで、逆にやる気をそがれてしまう。


「高一の夏の時点で“自分を変えよう”と思ったキミたちは幸運だ! 高校の授業というのは中学と明らかに異なっていて、自ら学ぶ姿勢がなければ落ちこぼれるのもあっという間。そして二年後には大学受験が待っているからして――」


中でもくどくどと精神論を重ねる、四十代くらいのハト胸のおっさんが一番面倒くさかった。

ハト胸の担当教科は英語で、体育会系の体格のくせして英語の発音がめっちゃよくて、ドヤ顔で英文を読む姿は無性に腹が立つ。


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