スノウ・ファントム


もともとあまり騒ぐようなタイプではなかったけど、男子が話しかければ普通に話していたし、声を上げて笑っている姿も見たことがあった。

なのに、二学期の初日に見た彼は、まるで自分の存在を隠したいかのように背中を丸めて席についていて、誰が話しかけても何も答えなかった。

その態度は、一日たっても二日たっても、一週間たっても変わらなかった。

そのうちに、皆が彼を気味悪がるようになって、陰で悪口を言うようになった。

いつしかクラス全体が“アイツは変だから、声を大にして罵っても問題ないはず”というような意識を共有するようになり、そこから本格的ないじめに変化していくまで、そんなに時間はかからなかった。

私は何もできず、ただその状況が早く過ぎ去ってくれればいいとそればかり願っていた。

でも、秋が過ぎて、冬休みを挟んで、もうすぐ二月になろうとしている現在に至るまで、葉村くんを取り巻くクラスの状況が変わることはなかった。

私の通う高校は、三年生に上がるときにクラス替えはないから、もしかしたら最悪卒業まで、彼はこのままかもしれない。


それを、傍観しているままでいいわけがないって、心のどこかでずっと思っている。

私は私にできることを、小さなことでもやってみるべきなんじゃないのかな。

たとえ、相手にどう思われようと、逃げない勇気。

いつもルカが、一生懸命私に示してくれるように。

本当は私にだって、持つことができるんじゃないのかな――。


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