クールなCEOと社内政略結婚!?
「でも、その理由がわかったのは彼女の遺言を受け取ったときだ。あさ美、なお美が大切にしていた宝箱を覚えているかい?」

「あ、うん。どんなに中を見せてってお願いしても、一度も見せてくれなかった。大事な思い出が詰まってるからって……」

「その宝箱のなかに、私の部屋から持ち出したものが綺麗にそろっていたよ。ひとつも欠けることなく。……彼女は私に父の会社を継いでほしかったんだと思う。そのために自分が犠牲になったんだ」

「そんな……」

 もともと強い人だと思っていた。けれど、相手に恨まれても自分の愛を貫くなんて……。

 言葉もなくただ父の話に耳を傾ける。

「ふがいないパパでごめんよ……。あさ美は……うっ……うう……あさ美は、パパが幸せにしてあげるからね」

 感極まってまた泣きだした父親に、慌てて新しいハンカチを差し出す。この日だけは、吸水力のあるハンカチをバッグに最低五枚は忍ばせるようにしている。それが、今日も大活躍だ。

「もう、いいよ。私は十分幸せだし」

 その言葉に嘘はなかった。中学三年で母を亡くし、急に父として現れた見知らぬ男性の保護下に置かれることになったのは、決して普通のことではない。けれど高校、大学そして就職と私の好きにさせてくれた。

 私は自分の思っている道を自分で歩んでいる。とても幸せなことだ。

 そして、本音を言えば彼に私の幸せを任せていてもきっと碌なことにはならないだろう。父は仕事はできるのかもしれないが、人間としては……少々、いやそうとう変わり者だ。

 しかしなにかと型にはまらない父だったから、私も自由にさせてもらってきた。これはこれでよかったのだと思うことにしている。

 父との間で何度も交わされた、お互いの母との思い出話をしながら、母の命日をふたりで過ごした。
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