クールなCEOと社内政略結婚!?
 しかし私が覚悟したのと同時に、腕を強く引っ張られ、体が後ろへと傾く。次の瞬間背後から力強い腕で、抱きしめられた。

「お前、少しは大人しくできないのかっ!?」

 ほっと安心したのもつかの間、耳元の社長の怒号に体がビクッと跳ねた。

 落ちそうになった恐怖と、怒気を孕んだ声に心臓がドクドクと大きな音を立てている。今頃になってじんわりと体に汗が滲んできた。

「申し訳ありません……」

 謝罪の言葉しか出てこない。思い返してみれば、エントランスでぶつかり、見合い中に池に落ち、挙句の果てに階段から転げ落ちそうになる。成人女性としてはいかがなものだろうか? 自分でも恥ずかしくなる。

「今度は助けられたからよかったものの、もう少し落ち着いて行動しろ」

「はい」

 さすがに反省した私は、しおらしく返事をして項垂れた。

「だいたい俺から逃げようだなんて、いい度胸だな」

「めんもくございません」

「この歳になって鬼ごっこなんてすると――」

「あのー……」

 熱弁中の社長の言葉を遮って私は疑問をぶつけた。

「なんだ?」

「いったい、いつになったらこの腕ほどいてくれるんですか?」

 さっきからずっと社長の腕は私に回されたままだ。そしてのその腕の強さは一向に緩みそうにない。
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