クールなCEOと社内政略結婚!?
「離すとまた逃げるだろう。追いかけるのが面倒だ」

 余計にぐっと腕に力が込められた。密着する自分の背中と社長の想像以上に逞しい体に、さっきとは種類の違う胸のドキドキが押し寄せてきた。

「逃げませんっ! 神に誓って逃げませんからっ」

「生憎俺は、神様なんて信用してない。信用できるのは自分だけだ」

 なんて、自信満々な発言だろうか。呆れて体の力が抜けた。それに感づいた社長の手が緩むと、私はすかさず両手を上げて社長の手の拘束をといた。さっと向き合って、両手をつき出して距離をとる。しかし、すぐに間合いを詰められそうになり声を上げた。

「ストーップ! これ以上は近づかないでください。適正な距離を保って冷静に話をしましょう」

 そうだ、自分の人生がかかっている大事な話をするんだ。ちょっと抱きしめられてドキドキした浮ついた状態でする話じゃない。私は兜の緒を締めて、戦いに挑む。

「ふーん。まぁいい。逃げないだけましだな」

 まるでなにか楽しいことでも始まるかのように、ワクワクした表情を見せている。理解できない。

「さぁ、これにサインしろ。それで話は終わりだ」

 昨日と同じように、スーツの内ポケットから差し出されたのは婚姻届。広げてつきつけられたそれをまじまじと見ると、昨日は気が付かなかったが、ご丁寧に保証人の欄に父のサインまでしてあった。驚いて思わず絶句してしまう。
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