Be!渋谷店の事件簿
「なんだよ。やましいことって」
「蓮見チーフ。さっきここに顔出してったよ」
「ふーん。なんで?」
「知らない」

遠くを見る目で蓮見チーフを心配している五十嵐を見るのが辛い。

「帰るか」

先に荷物を持った五十嵐に、

「うん。お疲れ様」

帰るように促した。

「おまえは?」
「もうちょっと」
「早くしろよ」
「先に帰っていいよ。これコピーしたりするから……」
「……出るぞ」
「はは…。そんな脅し怖くないからね」
「……」

静かなオフィスに漂う緊張感。
五十嵐が不機嫌になってる。
蓮見チーフと帰るんじゃないの?
二人で待ち合わせとかしてたんじゃないの?

「そういうことか……」

ぽつりと漏らした五十嵐を見れば、こっちを見ている視線とぶつかった。

「何?」
「……木村課長。待ってんだろ?」
「なんでそうなる?」
「じゃなかったらコピーなんて明日にしろよ」

強引な言い方。
まるであの頃みたい。

「ゆず!」

入口のところでドアを開けて待っている五十嵐。

「あ…うん」

そんな風に呼ばれたら、断れる訳ないじゃん。

結局、渋谷駅まで一緒に歩いた。
何年ぶりだろ。
あの頃のように私の右側を歩く五十嵐。
覚えているだろうか。
あの頃、私の右手はいつも開いてたことを。
いつ五十嵐に手を繋がれてもいいように開けてたのに、最後まで二人の距離が変わることはなかった。
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