シチリアーノは泡沫に
「はあ?」


僕の台詞を聞くと彼女は目を丸くしたあと、すぐにけらけらと笑いだした。


「私が飛び降りるわけないでしょ。例え飛び降りるとしても一人じゃ嫌だから五郎を先に突き落とすだろうな」


そう言って皐さんはニヤリと笑った。


「お、落ち着け。そんなことしたら田舎のお袋が悲しむぞ!」

「何言ってるの?バカ?」


僕の頭の中は、羞恥やら困惑やら恐怖やらが渦巻いていて何故か火サスのテーマが流れていた。

そんな落ち着きのない僕を、皐さんは楽しそうに見ていた。



「もしも、私が飛び降りてたら、五郎も後を追ってくれた?」

唐突にそんなことを聞かれた。

あの時、彼女が本当に消えてしまっていたら僕はどうしたんだろう?


飛び降りる?叫ぶ?立ち尽くす?
まあ立ち尽くすが八割がたを占めるな。


でも僕は、

「急いで坂をかけ降りて、近くの人に救急車とライフセーバーを呼んでもらって、海に飛び込んで皐さんを助けに行くよ」


そうしたい。



「よく言うわ、モヤシの分際で」


皐さんはなんだか、照れたように下を向いて言った。
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