シチリアーノは泡沫に

「五郎くん、麦茶で良い?」

「あ、はい。ありがとうございます」

ナンパなんかしてないのにもかかわらず、皐さんにどやされながらも目的の場所にたどり着いた。

さつき荘に入るとすぐに、窓から吹き込んでくる風と笑顔のおばちゃんが出迎えてくれた。

皐さんの母親の祐子さんで、僕の母さんの親友だそうだ。

あの母さんなんかと親友と聞いて、一体どんなに無茶苦茶な人だろうと正直不安だったが、祐子さんは見た感じ普通そうだ。

「吉田五郎、私にもお茶」

カウンターに座る僕から離れた窓際の席から、皐さんの声が聞こえてきた。

「あとなんか甘いお菓子持ってきて。冷たくないやつ、早くね」

なんて我が儘な女だ。

来たばかりの僕はお菓子の場所も身の置き方も分からないのに、早くなんてできるわけない。

「こら、皐、そんな言い方駄目でしょう」

呆然とする僕に救いの手が伸びた。

祐子さんだ。
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