あしたのうた




***


校舎内はいつもより活気があって、というより騒がしかった。


テスト明けの文化祭。俺のクラスは喫茶店をやっていて、裏方で準備を手伝っていたせいか店番は免除された、二日目の最終日。


二日間しかない文化祭だが、好きではない。文化祭というのは非日常で、変わらない日常が好きな俺からしたら文化祭に限らず学校行事というものは総じて好きではなかった。


嫌い、ではない。ただ、その活気がどうしても苦手だ。


昔から、賑やかなのが苦手だった。ずっと大人しいと言われ続けて、自分でも大人しい自覚はあった。それ故、というわけではないが、男子がわいわい騒いでいる中に入っていくのはどうしても苦手意識がある。


だから去年も今年も、文化祭は始まったのを見届けるとまずは部活のやっている四階端の教室に逃げ込んで、そこもちらほら人が増えてくると本来居てはいけないだろうと思われる部室にいつも逃げていた。


文芸部、部室。


生徒会の隣にある倉庫を借り受け、その部室ができたのはいつの頃からだったのかは知らない。


俺がここに来た時にはもうあって、使い古された感があったからもう大分前からあるのだとは思う。大きい棚がひとつ、後は奥の壁に紙袋に入った過去の部誌が山積みになっている。


小説、を書くわけではない。俺が書くのは、和歌。


否書くではなくて、詠む、だけれど。物心ついた時から、ずっと和歌に触れていた。


別に投稿をしているわけではないのだが。文芸部は活動が適当で、投稿したい人が投稿すればいいというスタンスだから、咎められることはない。


少し込んできた部活のブースを抜け出し、隣の部室に逃げ込む。そっと音を立てないようにドアを開けて、静かに閉めた。電気も点けず、薄明かりの中持ってきた文庫本を広げる。


目が悪くなる、と言われそうだが、それを言ってきそうなお節介はお楽しみの真っ最中で、ここに来ることはない。そのまま手元の文庫本にのめり込んでいると、ぱちんと音がして明かりが点いた。


え、と思ってしおりを挟んだ文庫本を閉じる。鍵をかけていたのをそっと解除すると、なるべく音が小さくなるように気を付けながらドアを開けた。


「ごめんなさい、」

「────いや」


目の前にいたのは、淡い色のワンピースを着た十センチくらい身長差のある少女。高くもなく低くもない、穏やかな声音のその声に、どこか聞き覚えのある声だと感じた。


初めてのはずなのに。会ったことなんてないはずなのに。


こちらを見上げるその姿に、どうしようもない程の既視感を感じた。


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