あしたのうた
普段ならしないようなことを、している自覚はある。それでもそうしないと、自分が壊れてしまうような気がして怖くて仕方ない。
私と渉は別にそういった関係ではなくて、寧ろこの時代ではまだ出逢ったばかりで、けれどそれを取っ払ってでも、他人にどう見られようとも、今は周りに気を回している余裕はなかった。
「……ずっと逢いたかったんだ」
落とされた言葉に、こくりと頷く。私も、という声は嗚咽に阻まれて喉の奥で消える。
優しい手つきで髪の毛を撫でられて、その身体に縋り付くと困ったような笑みが聞こえた。
「結果的に、置いて逝ってしまったこと。晶子、ごめんね、晶子。帰ってくるって、言ったのに」
「そ、んなこと……っ」
ふるふると首を振って、彼の言葉を否定した。あれはどうしようもなかった。私と彼では、どうすることもできなかった。
沢山、調べたことがある。
まだ晶子だった頃までは、ろくに調べ物ができなかった環境。私は私と彼を取り巻く環境くらいしか知らず、それも深いところで何がどうなっていたかを知っていたわけでもない。調べ物も十分にできない中で知ることができることは少なく限られており、この時代になって漸く、私は今までを調べることができるようになった。
その中で一番資料の残っている、まだ私たちが生きていた時代を知っている人たちがいるあの時代を────第二次世界大戦真っ最中の、状況を。調べることなど容易く、中でも何かと話題にされることが多い特攻隊を調べることなんて、造作もなかった。
昭和十八年に始まった、学徒出陣。文系の大学生も徴兵されて、清吾さんも当然その対象になっていた。
あの頃には、もうお互い思い出していた。だから和歌を学ぼうと、彼は大学の文学部へ進んでいた。女子が大学まで進むのは難しく、家計の状況もあって私は諦め、清吾さんから教わると約束をして、近所の定食屋さんで働いていた。
まさか、ああいうことになるなんて、誰が想像したというのだろう。
うたが、大切だった。私と彼の中で、唯一変わらないものが和歌だった。だから、漸く男子だけでも学ぶことができようになって、うたをもっと知るために大学に入ったというのに。
その、うたのせいで、私たちは、と。
この時代でそう思ってしまった自分が、どうしても許せない。あれほど大切だった和歌のせいにしてしまった自分が、どうしても。
裏を返せば、それ程過酷な時代だったと、辛い状況だったと、そういうことなのだけれど。
今までどんなことがあろうともうただけは信じられていたのに、そのうたを否定してしまったことが私の中で罪の意識として苛んでいるのだ。
「ごめんなさい……っ」