この冒険、やっぱハ-ドモ-ド過ぎません?
〔第6話〕鼻クイ


今、私は走っている。
新緑の季節に彩られた森の中を走っている。
隣には友であるトキユメも走っている。
振り返れば、巨大な斧を振り翳した巨大な二足歩行の牛も走っている。

皆、皆走っている。

『そう…走っている…。
じゃねぇえええええええ!!
何よこの状況!!
てか、散々挑発しまくってたアンタまで何で逃げてんの!?』

私は並走しているトキユメへ唾を飛ばした。

『やれやれ、一体何なんだチクショウ。
酒を飲んだ後に走ると酔いが回るの早いぜ…』

トキユメはそう言うと、気分悪そうに口許を手で押さえた。

『は!?アンタまた酒飲んでたの!?
ちょっ…ふざけんなマジで!!』

どうやら、彼女は酔った勢いで魔王軍の四天王の一人ディノタウルスを焚き付けてしまったらしい。

いや、酔ってなくても多分結果は同じだったかも…。

『そういえばア-リッヒ、親父の形見の剣は?』

『あんな重いもん持って走れるわけないでしょ!!
その辺に置いてきたわよ!』

あ~…これ、絶対天罰くだるわ私。

そうこうしてる内に、木々を薙ぎ倒しながら迫るディノタウルスは私たちのもうすぐ背後まで来ていた。

『あばばばばばば!!
来てる!!めっちゃ近くまで来てるって!!
アイツあんなデカイくせに速いっ…!めっちゃ機敏!!』

『聞け、ア-リッヒ。
良い作戦がある』

取り乱す私とは正反対に、トキユメは冷静沈着な表情だ。

『まず、俺がゲロを吐いてあの牛に踏ませ精神的にダメージを与える。
後はアレだ……お前がトドメをさせ』

『なるほど、わかった…ってなるかぁあああ!!
要は全部私に丸投げしてるだけじゃん!!
アンタただ吐きたいだけじゃん!!』

青ざめたトキユメの頬が今にも決壊しそうだ。
そして、すぐ後ろには狂暴な牛のモンスタ-。

もはやこれまでか……と私が覚悟を決めた瞬間、何かが眩く煌めいた。



『え?』

物凄い爆発音が背後から轟き、振り返るとさっきまでそこに迫っていたディノタウルスの姿が影も形も消えていた。

『一体何が…』

立ち止まり唖然としている私の横でトキユメが茂みの中へと遠慮もなく吐いている。


『まったく、相変わらずの出来損ないっぷりだねグズ共よ』

突然どこからか聞こえてきた懐かしい声に、私の表情は一気に明るくなった。

間違いない…。

この声は私の初恋の王子様の…

『リザイア先生!!』

側の大木から飛び降りてきた男に、私は黄色い声を上げた。

魔王討伐科の魔法陣学博士リザイア。
彼はイケメンであり若くして帝国一の魔法陣使いであり、しかもイケメンであり、私が恋焦がれているイケメン男性でもある。

『ん?
何だ…鬼畜変人講師か…グフゥ!』

いらんことを口にするトキユメを、私は強烈なボディ-ブローで黙らせた。

『リザイア先生!あの…どうしてここに?』

モジモジしながら近寄る私に先生は鋭い視線を向ける。
このS気たっぷりの表情が私を夢中にさせる要因の1つだ。

『いいかねグズ。
この本国領地の各所には吾輩が張り巡らした魔法陣が幾つもあるわけだよ。
君たちのようなグズの中のグズがこれだけ耳障りに騒げば、嫌でも気がつくよ。
理解したかね?ん?』

先生はそう言うと、私の鼻の両穴に指を入れると軽く持ち上げた。
これが、彼の得意技である顎クイならぬ鼻クイだ。
こんなイケメンに罵倒されながら鼻クイされたら、どんな女も一発でオチるに決まってる。

『いや…それで喜ぶ変態はお前だけ…ナフォッ…!』

再びいらんことを言おうとしたトキユメのボディ-に、私のヒ-ルキックが炸裂した。








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