コクリバ 【完】
「無理…ですか?」
「あぁ。もう少し待ってやれば良かったな」
「何を?」
「セックスを」
「―――!!」
先輩の口から直に聞くその単語は、刺激が強すぎる。

「痛かっただろ?」
その問いに答えるのは、……無理。恥ずかし過ぎる。

正直に言うと、痛かった。
でも……
先輩の肌の温もりは心地良かった。
低い声で優しく名前を呼ばれるのも、泣きそうになっていた。
いや、実際泣いていたと思う。
ただそれは、イヤだったからではなく、体の内側から溢れ出た想いがそうさせただけで。

振り向くと、優しいキスをされた。

「無理させたな」

私は首を横に振った。

「先輩が……初めての人で……良かっ…た…じゃなくって、先輩だからしたかった…ってそういう意味じゃなくって―――」
違うと伝えたいだけなのに、もう何を言いたいのか分からない。

水面が大きく揺らぐいだ。

「へ~、したかったんだ」
振り向くと、左頬を上げて笑いを堪えている先輩。

間違えた。

そう思った時には遅く。
あはは……と、声を上げて先輩が笑い出した。
つられて私も可笑しくなってきた。

「奈々、大事にする」

ひとしきり笑ったあと、甘いキスをした。

「なぁ」
「はい」
「俺が最初だろ?」
「っ、はい」
「今後は他の奴ともあるってことか?」
「は?何言ってるんですか……」
「……奈々」
「はい」
「一生、俺だけでいろよ」

ぎゅっと、心臓が鳴った。

「……」
「なぁ、奈々」

ドキドキが加速していく―――

「……はい」

声が、震えた。

「他の奴なんて、許さねぇから……」

先輩は痛いくらいに私を抱きしめ、顎を持たれて振り向かされると噛むような口づけが襲ってきた。

高木先輩にここまで想われていると思うと、嬉しくて、涙が止まらなかった。



この頃から、私は盲目的に高木誠也、一色に染まっていったんだと思う。
彼の価値観が私の価値観で、毎日、毎時間、高木誠也のことばかり考えるようになった。

傍で見ていたら、危険な空気を纏っていたことだろう……
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