コクリバ 【完】

モデル

そんな感じで、まだ平和な日々を過ごしていたある日、市原先輩から呼び出された。

「明日は部活ないけど、モデルとして来てくれないか?」

ついにきた。
これまでは部活の延長で部長と部員って関係だったけど、部活がない日ってことはモデルとして行くってことで……どうしよう。

本当に私でいいんですか?
ダメだったらクビにしてもらっていいですから。

市原先輩はそんな私の逃げ腰の態度を笑っていた。

梅雨の晴れ間のこの日、校舎には西日が入ってきている時間。

そっと扉を開けると美術室の真ん中辺りには衝立が並べて置いてあった。

その衝立から覗くように奥を見ると、既に市原先輩が作業をしている。

衝立の後ろには、小さな台。
普段はモデルが立つ物、それを並べて白い布が掛けてある。

「先輩。それは?」
「あぁ、奈々ちゃん。そこに横になってくれる?」
「はぁ…」
顔が強張る。

白い布の下にはクッションまで置かれていて、ちょっとしたベッドみたいになっている。

靴を脱いで白いシーツの上に座る。
夏服のスカートの裾が気になるけど、そんなの言える状況じゃない。

先輩は爪を噛みながら、私の周りをグルグル歩き始めた。

「奈々ちゃん。ちょっと寝そべって」
「はぁ……」

「膝を抱えてみて」
「はぁ……」

たくさんポーズを取ったけど、先輩はまだ爪を噛んだまま。
市原先輩の整った顔が私を責めるように見つめている。

やっぱり私じゃない方が良いんじゃないでしょうか

「ふぅ。ちょっと休憩しようか…」

先輩だってそう思ってますよね?
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