コクリバ 【完】
市原先輩は美術室の奥にある準備室へと入っていった。

何も言われないことが余計にショックだ。
ダメだなぁ。みたいに言ってくれたら楽なのに。
いっそのこと他の娘にしてくれたら……

帰りたい。

窓の外は西日が夕焼けに変わっていってる。
美術室の中も茜色に染められていく。

「奈々ちゃん」

呼ばれて振り向くと、ちょうど市原先輩の後ろに太陽があって、金色の光に先輩が立っているように見える。

それはまるで先輩が光っているかのようで

「天使…」

私の頭に浮かんだのは、受胎告知に訪れた、大天使ガブリエルの絵

大天使ガブリエルは、その手に白いシーツを持って立っている。

「これを着て」

大天使に渡されるままに白いシーツを受け取った。

「これを?」
「そう。こうやって身体に巻き付けて……」

大天使ガブリエルが私に白い布を被せる。

「あっ……」
「いいよ。似合ってる」

大天使は微笑んでいる。
そんな顔で見られることに恥ずかしさを覚えて顔が熱くなる。

「もう少しだけ注文していい?奈々ちゃん、脱いでくれる?」

「え?」
脱ぐ?
ヌードになれってこと?

「それは…無理です」
危うく騙されるとこだった。

「じゃ、隠して。見えてるとこだけでいいから、制服隠して」
「制服隠すって、どうやって…」
「肩を出して。うん、鎖骨も見えてた方がいい」
「え?」

それは、いかに大天使の頼みでも

「あ。ごめん。後ろ向いとくね」

そういう問題じゃないんですけど……

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