コクリバ 【完】
「ここです」

駅から近くて便利な私の自宅は、今日ばかりは近すぎだと思う。
あっという間に別れの時間。

「行けよ」

促されるままに坂道を上ると、先輩も後ろからついてきて、結局坂の上にあるアパート前の駐車場にまで先輩があがってきた。

「今日はありがとうございました」
「あぁ」

ジャケットを脱いで先輩に返しても、先輩は動こうとしない。

「もう大丈夫ですよ」
「部屋に入るまで見ててやるよ」
「いいですよ」
「いいから行けって」

押されるような形で、2階へ上がる階段へと向かった。

部屋に誘う?「コーヒーでも飲んでいきませんか」って言ってみる?
でも、それは違う意味で誘ってるように聞こえるかもだし……

「あ、あの……」

階段の途中で振り返って下を見ると、先輩がじっと私を見ていた。

「……」
「気を付けて帰ってください」
「あぁ」

鼓動がうるさくて、落ち着いて考えてなんかいられない。
早く部屋に入ってしまわなきゃ。
じゃないと、私は……どうしたいんだろう。
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