コクリバ 【完】

想い

日が暮れはじめたのどかな街の中をバスがゆっくりと進んでいる。
いつもならあっという間に駅前に着くのに、今日はわざとのようにゆったりもったりしか動かない。

バスの中で走りたい気分。

マスターからのLINEは2時間も前に届いていた。

まだあの人がいてくれるといいけど……


バスが駅前に到着すると、真っ先に降りて、走ってカフェ・ド・マティスに向かう。

すぐにレンガ敷きのお店の前について深呼吸をした。

何回か深呼吸をしてみたけど、ドキドキは治まらない。

しまった。化粧も直してくるのを忘れた。

どうしよう。一旦家に戻って、せめてジャージだけでも着替えてこようか……


重厚な扉の前で、考えを巡らせていたら、扉がひとりでに開いた。

「何やってるの?」

マスターが中から引っ張っている。

「え?」

「走って来たの見えてたよ」

マスターの笑い声と、もう一つ低い笑い声が店内から聞こえてきた。

恐る恐る中に踏み入り、そっと店内を覗くと、カウンターの中にもう一人いる。

「おかえり」

黒いギャルソンエプロンをつけたTシャツ姿の高木先輩が笑っていた。
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