コクリバ 【完】
「なんでここにいるんですか?」
「おまえんち行ったけど、誰もいなかったから…仕事だったんだな」
「うち、来たんですか?」
「あぁ。おまえ、ジャージ似合うな」

左頬を上げた高木先輩から視線を逸らし、床を見た。

「……なんで?」
「は?」
「……なんで、全然連絡くれないのに……こうやって突然…来たりして、なんで……」
「出航してたんだよ」
「しゅっこう?」
「あぁ。南の方に行ってた。海の上だ。電波は届かねぇ」
「……」
「一昨日戻って来たけど、昨日は当直だ。やっと今日から陸の上だ」
「……」
「……奈々?」

頬にツーと冷たい感触がした。

「せ、んぱい……」

胸の中に暖かいモノが広がっていく。
じわじわと全身にまで温かさが伝わると、鼻の奥がツンと痛んだ。

「お、おかえりなさい……」
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