コクリバ 【完】
川沿いにある遊歩道は時折ベンチも置いてあって、普段は数人の人たちが休憩しているのを見かけたりする。
でも夕方だからか誰もいなくて、高木先輩と私の足音しか聞こえない。
高木先輩の自転車の更に後ろを歩くスタイルもさっきと変わらない。
なのに胸の鼓動が治まらない。
カバンは胸に抱きなおした。

途中のベンチの横で、不意に先輩が自転車を止めて、前カゴに置いてあるスポーツバッグをゴソゴソしている。

黙って見ていたけど、先輩が取り出したものを見て固まった。

「あ……」

紺色のビニール袋
あの日、コクリバで吉岡にもらった物。
中身は確かCD

「これ、おまえのだろ?」
低い声がお腹に響いた。

私のだと認めれば、吉岡とのことも認めることになる。

ゴクリと唾を飲みこんだ。
指が震える。

「それは……」

あの日、吉岡とコクリバにいたことを知られたくない。
でも違うとも言えない。

「あん時、落としてっただろ」

高木先輩の目が見られなくて、下を向きながらコクリと首を縦に動かした。

「相手は、うちの部の吉岡か?」

「え?」

グッと喉が詰まった。

なんで先輩が吉岡の事を知ってるの?

悪いことをして見つかった時みたいに鼓動がうるさい。

「吉岡に渡すつもりだったのか?」

それは違うから、首を横に振った。

「じゃ、なんだ」

低くなったその声に、やっぱり尋問みたいだと思った。

だとしたら、私はもう白状するしかない…

「もらいました」
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