コクリバ 【完】
「おまえ、不倫はしてないんじゃないのかよ!それも嘘か!」

一瞬だけ私にきた視線はとても冷たいもので、

「……」

何も言葉が浮かばない。

「奈々先生に声を荒げるのはやめなさい」
「黙れ!嫁も子供もいるのに、奈々に手出してんじゃねーよ。おまえこそさっさと家に帰れ」
「何の話をしている?私には嫁も子供もいないが……」
「いない?」
「まだ独身だが……」
「はっ。良かったじゃねーか。奈々。不倫じゃないんなら堂々と兄貴にもそう言えよ」

高木先輩の軽蔑しきった目がそこにあった。

そんな目で見られるのは初めてじゃない。
古い記憶が甦ってくる。

『他の奴の女に手を出すほど不自由してねーよ』

それは昔言われた言葉だろうか、
それとも今、言われてる言葉だろうか……


「奈々先生のお兄さんと知り合いか?」
「おまえには関係ねーだろ」

先輩がバイクに向かって歩き出した。

「待て。彼女の話も聞かずに行くつもりか?」
「……」
「おい!彼女を信じられないのか?」

高木先輩は一度立ち止まったけどそのまま無言でバイクに跨り、黒いバイクが目の前を音を響かせて走り去っていった。
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