コクリバ 【完】
「長い間、おまえを、そういう奴だと思うことで自分を保ってた気がする」
「そういう奴って……」
「誰とでも寝る女だって。女なんて信じる方がバカだとずっと思ってた。信じててもいつか必ず裏切られるって……」
「……」

胸がギュッと痛むから思わず目を閉じた。

「ずっとそう思ってきたから、なかなかそれは直らなくて……おまえがあの男と帰って来た時に、やっぱりなっていう感じしかなかった」
「……すみません」
「謝ることねーだろ。俺が勝手にそう思ったっていうだけで、おまえは悪くないんだろ?」
「でも、これから先も、その不信感は消えないってことですよね?」
「……」

沈黙した高木先輩に思ったのは、やっぱりという確信。

「私もあります」
「……なにが?」
「私見たんです。せんぱ…じゃなくて、高木さんが……」
「別に、呼び方なんて気にするな。おまえが先輩って呼びたいならそれでいい」
「……はい。先輩が新しい彼女といるところを、私見たんです」

赤い傘が甦る。
真っ赤な高木先輩と橘先輩が肩を抱き合っている光景が……

「新しい彼女?」
「先輩がまだ卒業する前に、さっさと自分だけ次の人と仲良くしてて…私なんてとっくに嫌われてて…二人が中良さそうに傘に入って帰るところを見たんです」
「は?」
「それからは先輩の事忘れようと必死で…だけど、あの時の光景が頭から離れないで……今でも、誰かを好きになると赤い傘が出てきて、辛かった記憶が消えないんです。必ず誰かに取られそうで……」

先輩に聞いてもらえたら、胸の中の重たかった塊が少し軽くなったように感じた。

「だったら、おまえも、これから先、誰とも付き合えないな」
「そうですね。シングルマザーの話もそこから来てて。友達同士で冗談で言い合ってたんです。彼氏はいらないから、子供がほしいねって」
「あー。そういうことか。なんか繋がったな」

ふふ…と笑いながら先輩を見ると、先輩も笑っていた。

「だけどな、悪いけど、おまえ、それ、見間違いだぞ」
「見間違いじゃないですよ。高木先輩でした」
「だけど、高校時代だろ?誰とも付き合ってねーけど」
「仲良さそうに相合傘してましたよ、橘さんと」
「橘?橘って、女子バスケの?」
「……もういいですよ。その話は…」
「付き合ってねーって言ってんだろ。なんで勝手に勘違いしてんだよ。おまえ、まさか、それで連絡してこなかったのか?」
「連絡先は知らなかったんですって」
「誰かに聞いたのか?俺が付き合ってるって」
「聞いてはいないですけど…そんな雰囲気で…」
「はぁ?」
「違うんですか?」
「ありえねー」
「え?じゃ、今まで私が悩んでたのは?」
「知らねーよ」
「……」

突然、苦しんでたものを全否定されても、頭がついていかない。
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