コクリバ 【完】
途端に胸が息苦しくなった。

市原先輩はキャンバスに向き直り無言で作業を再開させる。
ドアの方からは何の音も聞こえてこない。

本当に高木先輩の声だったのか、聞き間違えたのかもしれない。
なんて思った時、
「高木。ドア閉めろよ」
市原先輩がそっちを見ないで言った。

やっぱりいたんだ。

「ドア閉めたら見えねぇだろうが」
高木先輩の低い声にどうしようもなく胸がドキドキする。

「終わるまでいる気か?」
「もう終わんだろ?」
「いや。まだ全然」

二人とも不機嫌そうな言葉の応酬。
私のとこから見える市原先輩は明らかに迷惑そう。

やっぱりこの二人は仲良いのか、悪いのかよく分からない。

ガラガラとドアの閉まる音が聞こえて、高木先輩が中に入ったのか外で待ってるのか、
私の感覚は耳にだけ集中した。

スリッパを引きずって歩くような音が聞こえる。

だんだん近づいて来ているようだった。

私の鼓動もドキンドキンと大きくなる。

「覗くなよ」

市原先輩が不機嫌そうに言うと、スリッパの音は早くなった。

「よう」

市原先輩の横にある衝立の切れ目から、高木先輩が顔を出した。
< 79 / 571 >

この作品をシェア

pagetop