コクリバ 【完】
久しぶりに見た高木先輩の姿
私はペコリとお辞儀して返した。
たぶんまだ緊張していることはバレてない。

「なんだ今日は制服かよ」
高木先輩が残念そうに言うので、顔が熱くなった。

今日はシーツではなく、夏服のまま白い舞台に横になっていた。
ただ足元は靴下を脱いでいて、裸足。

「高木。何を期待して見に来たんだよ」

市原先輩の顔には、笑みが浮かんでいる。
普段、部活のときには見たことのない表情。

「期待してねぇし。いっそジャージでやれ」

そう言いながら、高木先輩は真っ直ぐ私が横座りしている台の方に歩いてきた。

「邪魔だよ。そっち行くな」

市原先輩の筆が止まる。

「じゃ、どこならいいんだよ」
「あの椅子に座っとけ」

市原先輩が筆の後ろで差したのは、部屋の隅の隅にまとめて積んである丸椅子。

高木先輩は市原先輩を一睨みすると、
大股でその中の一つを持ち、わざと市原先輩の斜め前に音を立てて置いた。

「ここなら邪魔してねぇだろ」

言い捨てるようにそう言うと、ドカッとその丸椅子に座り足を組んで私を見た。

市原先輩は呆れた顔をしたけど何も言わずに作業を再開する。

やっぱりこの二人は仲がいいんだなー、ってなんとなく感じる。

高木先輩は組んだ足に肘をつき、その手にあごを乗せて、そのままじっとこっちを見ている。

恥ずかしい

「あの…高木先輩。終わるまでいるんですか?」
「悪いのかよ」
「いいえ……」

一緒にいられるのは嬉しいけど、このまま見続けられると心臓がもたない。

ジワジワと顔に熱を持ち、
高木先輩の視線から逃れるように、
反対方向に顔が向いてしまう。

「高木。おまえ、奈々ちゃん見るな」

市原先輩がまたしても不機嫌そうな声を出す。

「なんでだよ」
「さっきとポーズが変わってる」
「それ、俺のせいじゃないだろ」

ハッとして、元に戻す。

「すみません」

恥ずかしすぎる。
< 80 / 571 >

この作品をシェア

pagetop