コクリバ 【完】
「それさ、もう親に言った?」
「え?水族館のことですか?」

気にするとこそこですか?

「違う。泊りじゃなくなったって方」
「いえ。まだ何も話してないです」
「ふーん。それいつ?」
「7月最後の土曜日です」

先輩が私の眼を見て左頬を上げる。

「泊りのままにしとけよ」
「え?泊りのままですか?」
「合宿つったら普通泊りだろ。
もしかしたら緒方先輩も、美術部の泊りの合宿を知ってるかもだろ?」
「はぁ」

先輩が片方の手を自転車から離し、私の肩にその手を乗せた。
ぐっと引き寄せるから、ドキリと胸が鳴る。

「俺と泊まろうよ」

耳元で囁くように言う先輩。

その瞬間、足は止まり、全身が固まり、顔が熱を持ち始めた。

先輩と泊り~~~!

完全にパニック状態。


一通り興奮して、笑われた後、これまでの私からは想像もできない約束を先輩とした。

親には(と言うか、兄には)合宿だと嘘をついて、先輩と二人でお泊りをするという
親に嘘をつくことにもドキドキした。

バレるんじゃないかとか、
そしたらどんなに怒られるかとか……

それと
先輩とお泊りするというのは、もしかしたらそういうこともあるんじゃないかということで……

もしかしたら、絢香とともちゃんとした競争に、勝ってしまうかもしれないということで……

それから数日、私はかなり落ち着かない日を過ごすことになった。
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