太陽が愛を照らす(短編集)
太陽が愛を照らす




「ほら、ねぼすけ!」

 毛布をばさっと取り払うと、彼は眠そうに、手の甲でまぶたをぐしぐし擦った。

「いい天気だよ、起きて」

「……ねむい」

「わたしお腹空いたよ。ゆうべ颯さん急に来るから冷蔵庫空だよ。どこかに食べに行こう」

「……ねむい」

「じゃあわたし食べに行ってくるから颯さんお留守番してて。そのかわり冷蔵庫本当に空だからね」

「……」

 さすがの彼も空腹に耐える自信はないのか、渋々、嫌々という様子で、ようやく起き上がってくれた。


 颯さんとは、大学時代に出会った。サークルのひとつ先輩で、その頃から付き合っている。今年で丸六年。
 でも出張の多い仕事をしている彼とはなかなか時間が合わなくて、ゆっくりデートする時間も取れない。

 ゆうべも出張帰りなのか、荷物を抱えたままやって来て、疲れた眠い抱かせろ、ってなんだそりゃ。昔から無精なのは知っているけど、来る前にメールのひとつでも寄越してくれれば。急に来られても冷蔵庫は空だし、ムダ毛の処理とか、ごにょごにょ……。




 ようやく起きた颯さんと外に出たら、春にしては少し強い日差しがまぶたを刺した。あまりの眩しさに片目を瞑る。

「もうすっかり春だね」

「春っつーか、夏だなこりゃ」

「今年の夏も暑くなるかもねえ」

「俺今年こそ夏越せないかも」

「それ学生時代から毎年言ってるよね」

「暑いの苦手なんだって」

「そのくせクーラーも苦手だもんね」

「だから今年こそ夏越せないかも」

 そんな暑がりのくせに、颯さんはすっとわたしに手を差し出す。
 その手を掴むと、ぎゅうっと、痛いくらいに握られた。
 手を繋ぐのは久しぶりすぎて、なんだかどきどきした。




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