太陽が愛を照らす(短編集)





 ふと顔を上げたら、わたしたちの前を、家族連れが歩いていた。

 髪を可愛く結んだ女の子は、パパとママに手を引かれて楽しそう。見た感じ、パパとママはわたしたちと同じくらいだろうか。もしかしたらわたしたちより少し若いかもしれない。

 そんな素敵な光景にきゅんとして、颯さんを見上げる。

「なんか素敵だね」

「うん」

「わたしたちもいつか、あんな風になれたらいいね」

「そうだな」

 手を繋いだどきどきはいつしか幸せのどきどきに変わって、穏やかな気分で親子の後ろ姿を見つめた。

「そういやこの間、老夫婦を見たんだ。八十歳くらいの、白髪の老夫婦」

「うん」

「そのふたり、買い物袋を片手に持って、もう片方の手はしっかりお互いの手を握って。労わるようにゆっくり歩いてた」

「なんか素敵だね」

「ああ。俺たちもいつか、そんな風になれるといいな」

「そうだね」

 まさか「今年は夏越せないかも」が口癖の颯さんが、そんなに先のことまで考えてくれていたなんて。じゃあ暑さに負けている場合じゃないね。考えたら、ふっと笑みがこぼれた。

 そうしていたら颯さんは、すっきりした声でわたしの名を呼び、そしてこんなことを言う。

「そろそろ、おまえ、うちに来る?」

「……え? それって……」

「嫁に……」

「……行く」

 唐突なプロポーズ。
 思い返せば彼もいつも唐突だ。遊びに行くのも、うちに来るのも、勿論六年前の告白も唐突だった。一緒にいるうちに、実はあれこれ根回しするのが苦手な不器用な人だということが分かった。

 そんな唐突で不器用な彼は、わたしが頷くとふっと笑って「オムライス食いたい」なんて言う。こんな唐突な話の切り替えは、照れ隠しだということを、わたしはもう知っている。


 なんでもない日常も、そのなんでもない日常に現れる驚きも、この唐突で不器用な恋人も。
 全部全部、大好きだ。

 こんな幸せが、この先も――それこそおじいちゃんとおばあちゃんになるまで続けばいいな、と。そう心から思った、春の日。

 春にしては強い太陽の光が、わたしたちを照らしていた。








(了)
< 28 / 28 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:15

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

すきとおるし
真崎優/著

総文字数/17,307

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
わたしの時間は二年前から止まったまま。わたしの身体は二十七歳になったというのに、心は二十五歳のあの日のままだ。 実感のない、感情のない死が、これほどまでに大きいものだとは。 死というものが、これほどまでに透き通ったものだとは……。
立ち止まって、振り向いて
真崎優/著

総文字数/10,423

恋愛(ラブコメ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
悲しいくらいにわたしを異性として意識していないあの人は、わたしが今夜先輩の部屋にお邪魔したと言ったら、どういう反応をするだろうか。 先輩の部屋を訪ねた理由を「立ち止まって振り向きたかったからだ」と話したら、どう返すだろうか。 きっと大笑いは見られない。 恐らくいつも通りニュートラルな様子のまま「おまえはいつも変なことをするし、変なことを言うね」と、呆れた様子で言うだろう。
叶わぬ恋ほど忘れ難い
真崎優/著

総文字数/44,288

恋愛(純愛)47ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
※更新中※ この恋は、わたしが初めて経験する本気の恋だ、と。すでに気付いていた。一生で一度、あるかどうかの、本気の恋だ。 でもこの恋心は、決して知られてはいけない。成就もしない。それもすでに気付いている。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop