不思議の国の物語。
「千世子,こっちこっち!  急いで!」
燐火はさっきよりも明るく喋っていた。
「はいはい。 分かってるよ。」
やっぱりあたしは面倒な口調。
あの後,燐火は言った。
「あなたは死なないけどあたしは灰,いや砂となってこの世界から消えるわ。 例外もあるけれど。」
その例外というのが麻折らしい。
麻折は先ほど砂となってこの世界から消えた。 けど…。 けど…。
父母の復讐のために戻ってきた。
それが例外。
「復讐・憎しみ」
「愛情・寂しい」
喜怒哀楽の感情で消えたり,戻ってきたりするのだ。
麻折は…。 最初に言った…。
復讐。 兄に殺されてしまった麻折。 そんなことを気にせず明るく生きていたらしい。 けど…。 兄と会いその感情が抑えきれなくなり完全に我慢のリミッターが切れ爆発。
まぁ,一時期の爆弾みたいなもんよ。
そう燐火は言った。
あたしは,あたしは,あの麻折がこんなことにはなることは普通に分からなかった。 けど,燐火には全てがお見通しだったのだ。
燐火は妄想の部屋。 麻折は空想の部屋。
妄想と空想は一緒なようなもんだしね。 と微笑みながら言った。
「ほらぁ~。 何ボォ~っとしてるのさ。 早く行かないと…殺されちゃうよ?麻折ちゃんにさ。」
「う,うん。 ごめん。」
今出来ることは精一杯逃げて「孤独の部屋」へ行くことだけだ。



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