不思議の国の物語。
第五章 矛盾。
「千世子,ここから…離れて,すぐに!!」
燐火は,あたしを突き飛ばした。 
「え?」
あたしはいきなりのことでうまく動くことが出来なかった。
「早く!! この部屋から出なさい! 黒戈か麻折を連れて…──」
最後の言葉は聞き取れなかった。 
そう,燐火は…。 Jに殺されていた。 
「フフ。 アハハハハ。」
Jは…──多分,操られていると思う。 話していたときも,ずっと──。 麻折のことを語っていても…結局のところは─自分のことだ。 あの話も,全て。  
偽の話だったかもしれない。 けど,あたしは信じてあげるよ。 あんたの話を。 でも,なんで燐火を撃ち殺してなんてしてしまったのだろうか…。 
あたしは,思い出してみる。 Jの一番…触れて欲しくない。否,嫌なとこをズバリと言ったような言葉を…。 多分。 この言葉だ。
『あ,そうそう千世子。 Jはきっと人に操られてると思うわ。』
 Jからにしても人に操られていると堂々と言える性分じゃなさそうだし。 だけど,そこを『そうだよ。』と肯定していることに対して逆に不思議だ。 麻折との懐かしい記憶でもよく,嘘を付いたりしていた。 否,肯定することは少なかった。
「J!」
「アハハ。 俺はJじゃない。 俺の名は,切裂 時艱(じかん)だ!」
切裂 時艱。 そんな名前は聞いたことはない。 切裂は知っているけど…。 時艱って何? あたしは頭がこんがらがっていた。



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