ここで息をする


それを辿るように瞳を動かしていたとき、私は引き付けられるようにふと、プールのそばに建つ東校舎の一角に視点を定めた。

……あの人は、確か。

東校舎2階の角部屋。開け放たれた窓からこちらを見ている栗色の髪のその人に気付き、昨日の放課後の昇降口での出来事を思い出す。

あの人……昨日ぶつかってしまった先輩だ。たぶん、航平くんと友達の。

彼は頬杖をついて、じっとプールを見つめている。


「……え?」


……というか、私のことを見てる……?

先輩の存在に気付いた瞬間、目が合ったような気がした。

そこそこ距離があるし、私の自意識過剰な勝手な勘違いかもしれないけど……。昨日、何かを言おうと悩んだ顔でじっと見つめられた記憶が脳裏を過り、やけに先輩のことが気になり始めてしまった。

そういえばあの先輩、一体何を言おうとしてたんだろう……。

あのときは航平くんが現れたことで先輩は何も言えなくなってしまい、私もそのあと逃げるようにあの場を立ち去って。結局、彼が言いかけた言葉の先を聞けずに終わってしまった。

そのことを思い出すと、今更ながら気がかりになった。

私が気にしすぎなだけで、実は大した中身の話ではなかった、なんてことも大いにあり得るかもしれない。

……でも、なぁ。

あんなに真剣な目で見られたら、そう簡単な話じゃないような気がしてくるんだ。もちろん確信などはなくて、ただの想像なのだけど。

今でもはっきりと思い出せる。私を真っ直ぐ見据えていた、綺麗な茶色の瞳。澄んで実直そうに見えたあの目は、私に何を伝えようとしていたのだろう。

もう知ることもないだろうそれに、もどかしさを感じる。


再度東校舎を見上げてみるけど、彼はもう、こちらを見ていなかった。



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