ここで息をする


でもそう思うほど焦りでリュックの肩紐が捻れて、身支度にもたついてしまう。

視界の端には、真紀と季里が他のクラスメイト同様に興味深げな色に染まった瞳を私に向けている姿が映っていた。私に話しかけたいみたいだけど、私が急いでいる様子を見て控えてくれているようだ。

これは明日、色々聞かれそうだなぁ……。

そういえばまだ二人に頼まれた映画の話をしていなかったことを思い出して、明日聞かれたらついでに話してしまおうと、離れたところに居る二人に口パクでバイバイと伝えながら考えた。

同じく口パクしながら手を振る二人に見送られて、私は駆け足で高坂先輩のもとへ向かう。いつしかドアから離れて教室の外側にもたれて待っていた先輩は、私を見るなり待ちくたびれたと言わんばかりに顔をしかめた。


「おまえ、準備遅すぎ」

「先輩がいきなりすぎるんです! ていうか、話すなら歩きながらにしましょう」


先輩のペースに流されているとろくなことがなさそうだから、とりあえず本館に向かって先に歩き出した。1年生の教室が並ぶ廊下に居ては教室同様に注目を浴びてしまうけど、誰もが往来する本館なら先輩と歩いていてもまだ目立たないだろう。

それに先輩の目的地も大方見当がついているから、私は迷うことなく本館方向へ進み続けた。本館を経由して、映研部の部室がある北校舎に行くために。


「……で、私に何の用ですか?」


長い足であっという間に私に追い付いて隣を歩く先輩に、一応尋ねてみる。まあ、私の予想は当たりだろうけど。


「そんなの映画の話に決まってるだろ。今から部室で打ち合わせだから、おまえのこと迎えに来たんだよ。わざわざ迎えに来てやったんだから感謝しろよな」

「感謝も何も、先輩が勝手に来たんじゃないですか……」


それなのに偉そうに言われても、私には礼を言おうとする気持ちは湧いてこなかった。


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