家族の絆
 その研究会の発足時、3年の予定だったので、今年7月でそれまでの成果をもとに終了する予定であった。しかし、今までのアナログ受像機(いわゆる現在のテレビ)からデジタル受像機(これからでてくる新しいテレビ)の具体的な移行手順について広報的な活動を含めて推進していくことと著作権問題を明確にしていくことに関して、継続検討が必要だと幹事会で意見があがって、引き続き2年継続していこうという話になりそうな状況だった。
 1年前に高橋に代わって研究所長に就任した岩城は情報通信メディア研究所として研究成果を具体的に出すことに腐心していた。岩城は4年前にNTTから引き抜かれるような形で大日本電気においでいただいたような人なのだと帰任後本社の同僚から噂話に聞かされていたが、1年前に高橋研究所長が異動してしまったこと事体がショックだったし、ましてや、今まで全く関係のなかった岩城が研究所長として就任し直属の上司になったことが、海外赴任はともかく、20年に渡る会社生活での初めての大きな環境の変化であった。日頃から、岩城研究所長から情報通信メディア研究所の成果を挙げることを第一に考えて仕事をするように言われていた。研究所としての課題は光通信用の高速送受信装置の開発であったが、送信側の発光素子であるレーザーの性能に大きく依存するところがあって、スケジュール通りになかなか進まない状況だった。
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