家族の絆
「もともとお料理は好きだったのだけど・・・。うまくなったと思うの」
少し得意げな表情に一瞬なったが、とにかく話を続けるといった気持ちが感じられた。プライベートの話は基本的に職場へは持ち込まなかったが、どこからかユキの身の上話を仕出屋の社長夫妻が漏れ聞いたらしかった。同じ仕出屋で長年働いていたまじめ一本槍のユキより3歳年上のかわいがっていた従業員と一緒になったらどうかということで、話を持ち出してきた。ユキは別にどうでもよかったし、社長夫妻が勧めるならそれでもいいと思った。社長夫妻の申し出にユキは異存がなかったものだからすごく喜んでくれて、結婚を前提として付き合うようにしたらいいということになった。しばらくしたら一緒に住めばいいということで、その従業員がユキの家に来るようになり、そのうちに一緒に住むようになった。そんな状況だったから、社長夫妻はそろそろ結婚式をけじめとして挙げた方がいいということで式場まで用意してくれていた。ところが、式の前日になってその従業員は結婚ができないといい出したのだという。
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