冷たい男
第一章「表と裏の顔」
雨が打ち付ける窓の外を見つめながら、バスローブの紐を結ぶ。
振り返ると、ベッドでは煙草を銜えて夕刊を見てる私の彼氏、であろう男が1人。
風岡蓮也との始まりは、1年前の7月の中旬だっただろうか。
夕立で、下校途中だった筈。
傘を持ってなかった私が、寂れた商店街の軒下で雨宿りをしてると、車で通勤してるらしい風岡に声を掛けられたのだ。
濡れた制服で乗り込むのは億劫だった。
それに、風岡は顔立ちが優れ、背も高い。
冷たいと言われても、私は秘かに小さな想いを抱いてた相手。
そんな簡単にホイホイと乗れる場所ではない。
しかし、折れない彼に負けた私。
本気で断ってては、こんな日はなかっただろう。
着いたのは、庶民では住むなんて出来ない高層マンション。
この街に建った時は、野球選手や芸能人。
会社社長たちも購入すると、噂が流れた。
実際、どうなのかはわからない。
ただの教師である筈の、風岡が最上階に住んでるんだから。
広さは5LDKで、専用のバルコニーがある。
しかし、ここは20階建ての最上階。
自殺防止用であろう柵に囲まれてる。
星は綺麗に見えても、花火大会の花火や、家々の小さな明かりがキラキラとする夜の街は、柵に邪魔され、お世辞にも褒められた情景は眺められない。
「コーヒー淹れて良い?」
「あぁ。俺にもくれ」
風岡は私を見ず、動く事もなく返事を寄越した。