冷たい男
本来なら、願ってもない嬉しい出来事。

私……どうしたんだろう。



「足立さん、ちょっと深呼吸しよう。落ち着こう」



「私はどうしたら良いの……っ!私は何なの……っ!!」



将李と入れ替わり、私を落ち着かせようとやって来たお医者さんに八つ当たり。

苦しみをぶつけても、解決する事ではない。



「足立さん!足立さん!」



「わかんない!わかんない……っ!」



「――侑李っ!」



「……っ……、」



自分が自分でコントロールが出来なくなってた。

なのに、風岡が私の名前を呼びながら手を握って来た。

この人の手は、何故こんなにも温かいのだろう。

こんなに……温かかった……?



「先生の手……」



「それが何だ」



「……知ってる……気がする。でも、温かい……っ……」



何か大切な事が思い出せないのに、どうしてこの感触を覚えてるのだろう。

点滴の針の刺さる包帯に巻かれた腕を持ち上げ、左手に絡まる風岡の手を包む。

両手で愛しく、惜しむように撫でる。

そして、私の中に声に出すには恥ずかしいような光景がチラチラと蘇る。

滴る汗をそのままに、私の髪をかき上げながらキスしようとしてる風岡。

本当に、もしかしたら恋人なのだろうか。

私はこの人に抱かれた事があるのかも知れない。

けど、思い出せないのはどうして?

貴方は私の、どんな存在?

ただの片想いとかじゃない気がするのは、私の妄想なのだろうか。
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