あ、あ、あ愛してる
コンプレックス
ステージに上がった瞬間、胸が熱くなった。

拓斗がドラムを鳴らし、俺を見る。

ベースギターをテケテケ鳴らし、奏汰が客席に向かって呼び掛ける。

遊園地のイベント広場。

観客は上々、空席はほぼない。

デコった団扇や扇子をしきりにかざし、声援を送る客の顔。

俺はベースギターを爪弾き、歌い始める。

歌う時、俺は息苦しさから解放される。

上手く出て来ない言葉を無理矢理絞り出す辛さを忘れられる。

歌う時みたいに、言葉がすんなり自由に出てくればいいのにと、いつも思う。

物心ついた頃から喋ることが苦手だった。

小学生の頃には喋ることを極力避け、筆談で話すようになっていた。

両親は上手く喋れず、不登校気味だった俺を手話教室に通わせた。

言語聴覚士による治療も受け始め、治療方法の1つに歌うことを勧められた。

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