あ、あ、あ愛してる
「和音、お前は着ぐるみ運んで。奏汰は事務所に知らせろ」

イベント広場は静まり返り、俺たちの様子を傍観している。


「すみません――」

拓斗がライブ中断を伝え、花音を抱きかかえ、急ぎ足で救護室に向かう。

俺は観客に深々と一礼し、着ぐるみを抱え、拓斗の後を追った。

俺は拓斗みたいに的確な指示も出せないし、緊急事態に、ファンへの謝罪もまともにできない。

まともに喋れないことを晒すのが恐い。

歌うことを止めると、いつも現実に引き戻される。

喋れない現実に心が萎縮する。

火照って苦しそうな花音に声を掛けることもできずに、黙って歩く。

救護室までの僅かな距離が、ひどく長く感じられた。


「和音、大丈夫か。喋れないことを責めるな」

俺の気持ちを見透かし、拓斗が優しく言う。


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