あ、あ、あ愛してる
超絶技巧演奏家の代役
演奏プログラムに目を通し、ゾッとした。

――何だ、この選曲

思わず、口に出した。

上手く声の出ない俺のため息は、エマには届かなかったが、エマの自信に溢れた目が「大丈夫?」と問いかけていた。

初っぱなに「サクラ変奏曲」を持ってきているあたりは、日本公演を意識してのことだろう。

日本古謡として親しまれ、海外でも最もよく知られた日本音楽「さくら」曲を、ヴァイオリン演奏用に編曲した「サクラ変奏曲」、作曲家も日本人だ。

日本音階「ハニホヘトイロハ」を用いて琴をイメージさせるピチカート奏法や、分散和音を駆使した技術的にかなり高度な曲だ。

続いてサラサーテの「序奏とタランテラ」だ。

最初はきれいなメロディだが、タランテラに入ると猛烈な速度で3連符のスピッカートが続く。


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