あ、あ、あ愛してる
「誰かと話をしていたわよね。たしか……音楽科の男子」

鋭いと思い、和音くんから手渡されたメモ用紙を制服のポケットに入れる。


「うん。音楽科の有栖川さんとぶつかって」


「有栖川って……あの音楽科首席で真面目くんの喋れないダサ男!?」


「これ、ぶつかった拍子に落っことして拾ってもらって」

筒をツンツンしながら答える。

咄嗟に思いついたにしては上出来の言い逃れだと思った。


「有栖川さんが何で授業中、廊下を?」


「熱があるから早退するって言ってた」


「また!? あの先輩、遅刻早退すごく多いらしいよ。喘息持ちで、パニック発作起こして過呼吸になって、たびたび失神してるとか。体が弱いみたいだから、遅刻早退仕方ないんだろうけど」

あたしは有栖川和音が学園の有名人だということは聞いていたけれど、体が弱いという話は初めて聞いた。


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