【続】興味があるなら恋をしよう
★ ★ ★

帰り着いたところで、会話なんて無いものだと思っていた。
正直、何もかも棚に上げて課長が恐かった。
車を降りてからも、エレベーターの中でも課長はずっと手を繋いだままだった。


部屋の鍵を開ける時、離された。

中に入ると袋を置き、玄関で私の手を取り、腰に腕を回した。
リビングのソファーに座るように促された。

待っててくれといい、廊下に置いたコンビニ袋を持って来て中身を冷蔵庫に終った。


隣合って腰掛けた。
距離は空けずにだ。

…逃げたりしない。曖昧にも出来ない。
対処しないといけない問題にきちんと向き合う人。課長は先延ばしにはしない。

「…藍原、俺が恐いか?」

発せられた声にビクッとなりかけた。
でもそれは、柔らかい問い掛けだった。
こんな風に聞かれるとは思わなかった。

「恐いと感じたという事は、理由があるからだろ?
…解っている。…どんなに求めて俺が抱いたところで…。
藍原は応えていても、ほんの少しだ、ほんの少しだけど、藍原の中にはまだ空虚な部分がある。
…それに気付いてないとでも思っているのか?
藍原が俺の求めに応えてくれていてもだ…」

こんな事言われたくはないだろう。
自分の心は自分がよく解っているのだから。

「解っている。どこかまだ揺れているのは、ずっと解っていた事だ。
だから定まるまでは抱かなかったし、ずっと待つつもりだった。
一緒に居る事で、静かにゆっくりと…、穏やかに少しずつでも埋まって来るだろうと思った。
だから、大丈夫だろうと、…我慢が効かなくなって、欲しくて求めてしまった。…好きだからだ。それも…良くなかったな…。未だ関係を持つべきではなかった…」

確認したとか、いいって言ったよなとか、言い訳がましい事は言いたくない。問い質したところで意味は無い。藍原だって応じたよなって、言い訳にしたくない。言うべき事ではないと解っている。


「知りたいのは一つだけなんだ。だけど、今は聞かない。
聞いても未だ無駄だからだ。綺麗な…、無難な答えはいらないからだ。今日の事は、有り得る事だと思っていた」

というか、…坂本は求めて当然だと思う。奪取してもいいのかと、面と向かって言われているんだから。俺が、隙を作ってしまった。

「俺の中では起こり得る事だと思っている。おこがましい言い方をするなら、許容範囲の事だ。
…坂本の事、好きなんだろ?」

認めていても返事は出来ないだろう。解っているだろうが、それが肯定している事にもなるんだ。違うと言わないんだから。
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