【続】興味があるなら恋をしよう
「…明日、本当に荷物を取りに行ってもいいのか?
まだ止めておくか?鍵は一旦返しておこうか?」

止めたいなら止めるか?俺との事は。…それは、言ってやれない。…小さいヤツだ。
はぁ…。どれも返事は出来ないだろう。圧を感じてるだろうからな。
…心を揺さ振るつもりは無い。
だけど伝えておきたい事はまだある。

「藍原。明日、親御さんに会う事を許して欲しい」

「……え?」

「会って何を話すかは内緒だ。お父さんにもお母さんにも話す内容は口止めをしておく。
だから、探っても無駄だぞ」

…そんな…何を話すの?私とは無理になったと話すの?

「心配するな。と言っても不安だろうが。何を話しても俺の気持ちに変わりは無いから。その点の心配なら要らない」

…。

「荷物は、明日、運んでください。お願いします」

藍原…何を自分の中で消化したんだ。無理をする意味はあるのか?

「…解った。じゃあ鍵はこのまま預かっておくよ?」

「はい」

「うん。荷物を取って来て、それから実家に伺うつもりだ。帰りは何時になるか全く解らないな。明日…、折角の日曜なのに、ずっと一人にさせてしまうな。ごめんな」

肩を抱かれた。
ぁ………。頭を優しく撫でられた。
………。

「う、…ぅ、ぅ」

嗚咽が洩れた。……ごめんなさい。今こんな風に泣いては駄目だ。…卑怯だ。
頭を胸に付けられ身を預けるようにされ、抱きしめられた。背中を摩られた。
ゆっくり時間を刻むようにトントンされた。

何も言わない。だけど…。自分勝手な解釈だけど。
大丈夫だ、焦らなくていいと、言われているような気がした。



そのまま眠ってしまった私が目を覚ましたところはベッドだった。
隣に課長は居なかった。
飛び起きた。
よろける足どりで課長を探した。

リビングに見覚えのある段ボール箱があった。
あ、もう…行って来たんだ。なんて…早い。

テーブルの上の携帯が震えながら鳴った。乗せられていた鍵が一緒に震えて妙に響いた。

メールでは無い。電話だ。
飛び付くように手にした。

「は、い…」

「早いな、起きてたのか?あー、今起きたんだろ。おはよう、紬」

あ…、ぁ…。

「課、長…」

「ん?実家に行くのに、今日は紬からキスして貰って無いから。せめて声が聞きたくなった。
紬のキスは俺に勇気をくれるんだろ?
行って来るよ、紬」

あ…課長。駄目だ、声が思うように出せない。これでは、う、う、しか聞かせられない。
やっと絞り出したのは、待ってます、の一言。…ごめんなさい。

「ああ、待っててくれ」

「…は、い」

ブー、ブー。メロディー。あ、メール…。
キスの絵文字。と、貰ったぞ、の言葉。
課長…、?。

…催促かも知れない。絵文字を二個、返した。

【ドキドキさせるなと言ってるだろ】

【はい、解ってます】

【ずっと紬の事、考えてるよ】

あ、…。こんな優柔不断な私を、こんなにも思ってくれる…、課長…。

【はい、私も】

と、返した。
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