【続】興味があるなら恋をしよう
こんな…緩みきった顔で親元に帰ってしまっては…。大人として恥ずかしい。
しゃんとしないと。
課長はと言えば、もうすっかり落ち着いて、冷静を取り戻したようだった。
ネクタイを締め直し、身なりを整えていた。
いつもの課長に戻っているように見えた。



実家で挨拶を済ませ、父親から言われた言葉は、予想通りといえば予想通りだった。
そうだな、結婚するってところまで漕ぎつけたら、本当に一条さんと付き合ってたんだと信じられるかな、だった。勿論、漕ぎつけるだけではなく、結婚してお互いに末永く幸せになって欲しいと思っている、と。

本当にお付き合いしている人だと説明しても、すればするほど、深みに嵌まっている気がした。
嘘じゃないと思ってくれても、どこか半信半疑のようで…。
悲しいかな…。一度、いや、二度三度と狼少年になってしまった私の言葉には、説得力が無かった。
仕方ないのだけれど、いい加減信じて貰いたい。こうして正真正銘、相手が居るのだから。出来過ぎてるって言われても、嘘じゃないんだってば…。


帰りの車の中で、まあまあ、と、課長に慰められた。
課長的には、きちんとした挨拶は済ませたし、これから先、近い内に、一緒に住む事の許可も取り付けた。ひと先ずやるべき事はしたって感じだろう。
実際、課長の挨拶は流暢なものだった。緊張など微塵も感じなかった。流石でした。
半信半疑の割には、一緒に住む事を許可する、親も親だと、理解しがたいと思ったけれど…。
そこは、課長も私も大人だからという事で、全てにおいて、自己責任なのだと理解した。


和食屋さんでご飯を食べ、課長の部屋に帰り着いた。
浮かない顔で、美味しくご飯を頂いて無かった私の様子を、課長はずっと気にかけてくれていた。
何だか課長にだっていい気はさせていない。それが情けなくもあり、嫌だった。

「課長、すみません。何度も本当なんだろうなって。課長まで色々と…」

全て私が悪い。大丈夫だと軽く考えていた。本当に申し訳ないです。

「藍原…。本気というモノは人に必ず伝わるものだ。だから心配無い。俺は何も気にしていないし、心配もしていない。お父さんもその内、心から解ってくれるさ」

「でも…私のせいです。いい加減に嘘をついて、彼氏や結婚の事をかわして来た罰です」

「もう今更、だろ?罰とか、そんな大袈裟なものではない。落ち込むな、大丈夫だ、ん?」

ソファーに腰掛けた私の肩を抱き寄せ、頭を撫でてくれた。

「直ぐ笑い話になるよ。俺達が変わりなく、仲良くしてたらいいだけの事だ。そうだろ?」

身体を捩るようにして正面から優しく抱きしめてくれた。これでもかって程…慰められていた。

「はぁ…。私は自分が情けないです。…本当に…もう」

私は温かいその胸に身を委ねた。
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