【続】興味があるなら恋をしよう
「間違うなよ?」

「解ってますから、少し離れてください」

「あ、待て待て。…危ない。ここはそうじゃない。
紬の戸籍の本籍を書くんだ。
やっぱり見とかないと危ない。よく読んでから書いてくれ」

課長が側でヤイヤイ言うからでしょ?
それに、急に書かせるからです。
課長はじっくり時間を掛けて書いたでしょうに。

…。

「あ、待て待て。
ここの名前はまだ一条じゃない、藍原紬って書くんだ」

えー、そうなんだ。横棒で止まって良かった。
藍のくさかんむりに何とか続けられる。

「…解ってます。もう…、緊張しますから、離れてください」

「ここまで書けたら、もう大丈夫だな。
判子あるか、判子。押したらOKだ」

…。判子。…無いかも。

「課長…判子、ありません」

「なにぃ?」

「だってですね」

確か、職場に置きっぱなし。
それにここは一条さん家ですから。家で必要なのは一条印ですから。

「あー、解った。いい。行く途中で買う」

藍原って…認印、中々お店に無いかも…。

「はい。すみません」


結局、店の大量の認印の中、あ行を入念に探したけど、藍原が見当たらず、実家に立ち寄る事にした。

丁度って言ったらついでみたいだけど、婚姻届を出す報告にもなった。
本当に結婚するんだって、お父さんにポカンとされた。

…保証人の欄に記入した時はどんなつもりだったのよ…。
まあ、ジワジワ、実感してくれるでしょう。
お母さんは納得したような顔をしていた。

とにかく、急に婚姻届を出す事になりましたので、式の事などが後からになりますがと、課長がいつものように流暢に説明をした。

二人でいいようにしてくれればいいと、両親はなんの異論も無かった。
…うちの親って簡単ね。
相手が課長だから、尚更なのかな。
課長が有無を言わせないオーラがあるのかも知れないけど。

課長に絶大なる信頼を寄せているのは確かだと思った。
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