ハロー、マイセクレタリー!

「ほら、見て。今日も二人よ」
「あの、二人って付き合ってるのかな?」

学校に到着して、僕らが昇降口を目指す間、ひそひそと周りが余計な詮索を始める。小学生といっても、今や当たり前に男女交際する時代だ。品行方正な子女が集まるはずの名門私立小学校でも、女子児童の興味の中心はやはり恋愛らしい。

「あの二人、単なる幼なじみらしいよ?」
「えー、ホントに?」
「大木君のお父様が、結依子さんのお父様の秘書をなさってるとか」
「それじゃあ、姫と家来みたいな感じ?」
「それなら、毎朝一緒なのも納得」

あらぬ憶測で勝手に盛り上がる女子たちを気にすることなく、結衣子は愛想良く挨拶を返しながら、進んでゆく。
昇降口まで来たところで、彼女は周りに人が居ないことを確認して、そっと僕に話し掛けてくる。

「姫と家来って、いつの時代よ」
「そう見えるのも、仕方ないよ。勝手に言わせておけばいいさ。僕は、気にしない」
「そうもいかないわよ。いつも家来を連れて登校してるだなんて、私のイメージに傷が付くわ」

毒を吐いているのに、顔はプリンセススマイルのまま。外では絶対にぼろを出さない完璧さに、僕はいつも感心する。

「だいたい、奏と一緒に居るだけで女の子のやっかみを受けるんだから。この前だって知らない子に睨まれたし」
「それは、結衣子の気のせいだよ」

僕も笑顔で微笑みながら言葉を返す。
確かに、これだけ注目を浴びていれば、中には結衣子のことを良く思っていない者も出てくる。
世の中には、理解しがたいことに、人気があるという理由で人を嫌う人間だっているのだ。戦後最大の人気を誇る首相が「100%の支持を得ることなど、神様でも不可能だ」と言うのだから間違いない。
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