ハロー、マイセクレタリー!

この一週間、結依子は葛藤していた。
新しい家族が増えることを、純粋に喜ぶ気持ちと。
跡取りの座を、性別が男というだけであっさり弟に奪われる屈辱。

家族の前では、いつも思うがままに振る舞う結依子だが、さすがに弟に向けられた負の感情だけは顔に出すことが出来ないようだった。
この話題で結依子があからさまに不機嫌になるのは、きまって僕と二人で居るときだけだ。

僕の前だけで、見せる不機嫌な横顔。
少しだけ尖らせた唇。
刺々しい言葉のやり取りさえ、僕はこの上ない喜びを感じる。

ただでさえ、貴重な結依子の姿を、世界中で、今、僕だけが独占している。

そんなことで僕の気分がたまらなく高揚する理由は────





僕が、彼女に恋をしているからだ。

それをはっきりと自覚したのは、つい最近のこと。それまではこの胸のざわつきの正体について、何か悪い病気なのではないかと深く思い悩んでいたくらいだ。

でも、自覚したら自覚したで、僕はまた思い悩むことになる。
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