ハロー、マイセクレタリー!
おまけSS(結依子目線)

彼に髪を結われている間、私はいつも小さな手鏡を覗き込むようにしている。

そうしていないと必要以上にドキドキして、自分のペースを乱されるからだ。

髪に触れる奏の手に、自分の胸が高鳴っていることに気が付いたのは、11歳。
奏から初めて好きだと告げられた翌日のこと。

心の安息を求めて、別の事に神経を集中させることを覚えたのは、15歳。
最初は歴代総理大臣の名前を頭の中で延々と唱えていた。

それを、お化粧する時間に充て始めたのは、18歳。
瞳ちゃんから教わったばかりのメイクは、最初はやたら時間が掛かったから好都合だった。以来、ずっとこの方法で通している。


「今はメイクの必要、ないと思うけど?」

お風呂上がりにも、朝髪を結うときと同様、彼は私を洗面台の前に座らせて手早く髪を乾かしていく。
結婚して一年が経った今でも、私の髪に触れるその手に、ドキドキさせられている私は何なのか。
長年の習慣で、思わず手鏡を手にとってしまった私をからかうように微笑んだ奏に、私も余裕ぶって微笑み返す。

「つい癖で、手に持っただけよ」
「……そんなに僕に触れられるの、ドキドキする?」

核心を突くひと言に、私は内心頭を抱えた。それでも、何とか微笑みだけは崩さずに持ちこたえる。

「先生、笑顔が引きつってますよ?」

奏が秘書モードで指摘する。私はすぐに降参した。
どんなに隠したつもりでも、奏の前では意味がないのだ。私の心はいつも丸裸にされてしまう。
真っ赤になった顔を両手で覆ったら、奏は可笑しそうに笑い声を上げた。

「結依子、かわいい」
「お願いだから、これ以上からかわないで」
「無理だよ、僕の密かな楽しみだから」
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