ハロー、マイセクレタリー!
笑いを堪えながら、彼は乾かし終えた私の髪を優しく撫でた。
彼に触れられたところが、たちまち熱を帯びてゆく。
私の一大決心を、軽くあしらわれているようで気にくわなかった私は、眉間に皺を寄せて再度主張した。
「大好きな人の子どもを産みたいって思うのは、女性としては普通の感情だと思うけど?」
勢いよく告げたひと言は、今度は奏にちゃんと届いたらしい。
奏の笑い声がピタリと止まった。
珍しく唖然とした顔の奏が鏡の中で、しばらく静止する。
何かマズいことを言ってしまったのだろうか。
少しだけ不安が頭を過ぎった瞬間には、我に返った奏に後ろから思いっきり抱きしめられていた。
「初めて、聞いた…」
私のうなじに顔をうずめた奏が、ぽつりとか細い声で呟いた。
「大好きな人って、僕のことで間違いない?」
どうやら、私は生まれて初めて愛の告白をしてしまったらしい。
告白と言うにはひどく回りくどい言葉で、しかも今更告げるには遅すぎる内容だけれども。
彼の問い掛けに大きく頷くと、そのまま、ひょいっと体を持ち上げられる。
「ちょっ…!奏、降ろして!重いって」
「大人しくしてて、重くないから」
そのまま寝室のベッドに降ろされて、いつもより妖艶な瞳の奏に組み敷かれる。
「僕の子ども、産んでくれる?」
「もちろん」
「人の親になるのは、きっと想像してるよりずっと難しくて大変だよ」
「それでも、大丈夫。奏がずっと一緒にいてくれるんでしょう?」
「もちろん。じゃあ、姫の仰せの通りに」
ベッドに深く沈み込みながら、キスの合間に交わした会話はひどく記憶が曖昧で、これを最後にあとは覚えていない。
ただ、彼が一晩中私の手を握りしめて離さなかったことだけは、たぶんこの先もずっと忘れないだろう。
【おしまい】
日頃の感謝を込めて、おまけのショートストーリーを追加しました。
お読みいただいた皆様に、深く感謝申し上げるとともに、今後ともどうぞよろしくお願いします!!
2016.12.31
木崎湖子


